夏川夕の作家生活

歴史と異文化をテーマに小説を書いています。出版賞に挑戦中。

国立歴史民俗博物館に見る、理想の博物館

こんにちは。

夏川夕です。

 

先日、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館に行ってきました。以前、何かでジオラマがすごいと聞いたので、ジオラマ好きな私は一度見に行ってみたかったのです。ところがこの博物館、ジオラマもすごかったのですが、とても隅々まで気が配られていて、まるで博物館としての一つの完成形を見たようで、感動してしまいました。

私は大学時代、博物館学を少し齧りましたし、いくつかの博物館や美術館でバイトしたりもしました。また今まで、国内外の大小様々な博物館を訪れてきました。本来、博物館というのは貴重な資料や研究内容を人類のために保存・公開する場であり、人それぞれの好みはあっても、素人に優劣をつけられるものではないと思います。しかし、在り方としての博物館という意味で、こんなに見事だなあと思った場所は他にありません。

この記事では、国立歴史民俗博物館のどこにどうして感動したのか、いくつかのポイントに絞ってシェアしたいと思います。

 

 

 

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博物館は、佐倉城址の中にあります。昔は陸軍が駐屯していたようですね。

 

はじめに:国立歴史民俗博物館は、こんな施設

この施設は、大きく6つの展示室に分かれています。それぞれ古代・中世・近世・民俗・近代・現代がテーマになっていて、展示室内で、更に細かいテーマごとに部屋が分かれています。1つの展示室が小さな博物館くらいあって、すべてをじっくり見て周ると、1日では見切れないかもしれません。6つの展示室はそれぞれ独立しているので、好きな時代から見ることができますが、古代から順番に見て周ると、日本通史を視覚的に学べるという仕組みになっています。

 

ポイント①:レプリカの多用

ちょっと意外な点から入りますが、この博物館は、レプリカがとても多かったです。「あ、この資料ここにあったんだ~」と思ってラベルを見ると、だいたいレプリカでした。ちゃんと数えたわけではないのですが、感覚的には2つに1つはレプリカだったような気がします。そのくらい多かったんですね。

本来、レプリカの使用目的というのは2種類に分けられると思います。1つは、資料は博物館に保管してあるのだけれど、脆すぎて公開に堪えないので、仕方なくレプリカを作成するというもの。例えば、木簡や布製の衣装ですね。木や布は、ちょっと強い光で色を失ってしまったり、温度や空気の流れで、カビに侵されたり虫に食われたりします。すると公開する利点より、適切な場所に保管して、資料保全に努める利点の方が大きいと考えられますね。そうなると、本物は保管しておいて、公開にはレプリカを使うことになるわけです。

レプリカを使用する目的の2つめは、その博物館にはない資料なのだけれど、他の展示資料をわかりやすくするために、補足として用意する場合です。例えば、中世の日本と中国の仏像の類似性を示したい場合には、日本の仏像だけを展示してその類似性を文字で説明するより、中国の仏像を一緒に並べておいた方がわかりやすいですね。しかし、日本の仏像との類似点をわかりやすくするためだけに、わざわざ日本の中世時代の中国の仏像を手に入れるのは、実際的ではありません。するとレプリカを使用するのが、購入・保全という意味での金銭的にも、文化財の適材適所という意味でも、効率的になるわけです。

ところが国立歴史民俗博物館は、このどちらの目的にも当てはまらないレプリカの使い方をしています。つまりこの施設のレプリカは、それ一つだけで博物館がつくれるような、いわゆるメイン級の、教科書にも掲載されているような資料が多かったのです。有名なところだと、群馬県出土のハート形土偶とか、稲荷山古墳出土鉄剣ですね。「えーこれここにあったのー」と思って見ると、複製とかレプリカとか書いてある。あまりにそれが続くので、博物館の意図がわからないうちは、なんだか騙されたような気さえしたほどです。

しかし初めこそ少し戸惑いはしましたが、レプリカの多用は、そうと知ってしまえば貴重な資料を一度に見ることができる機会となり、とても面白い経験でした。

例えば稲荷山古墳出土鉄剣は、刃に刻まれた字句がごく初期の天皇について語っていると言われ、日本史に置いて重要な史料です。私はこの剣を教科書の写真でしか見たことがなかったので、何となく大きくて立派な剣をイメージしていました。ところがレプリカで見た鉄剣は意外に細く、刻まれた文字も小さくて、目を近づけなければ読めないほどだったのです。これは実際に見なければわからないことですね。

更に、稲荷山古墳出土鉄剣のレプリカの近くには、七支刀のレプリカも展示されていました。七支刀もまた刃に文字が刻まれていて、古代日本を知る貴重な史料です。これも想像していたより細く小さなものでしたが、面白かったのは、稲荷山古墳出土鉄剣と同じくらいのサイズ感であったことです。稲荷山古墳出土鉄剣と七支刀の本物は、それぞれ別の場所に保管されていますから、このように並べて見るのはレプリカでないとできません。つまりレプリカで並べてあったからこそ、二振りの刀が同じサイズ感であることを知ることができたわけです。

レプリカの多用は、何だかにせものを量産する行為のような気がして、私はあまりいいイメージを持っていませんでした。しかし国立歴史民俗博物館のような使い方ならば、教科書や研究書を読むだけではわからない学びを得られます。まるで新しい世界が開けたようで、私はこのポイントだけでも、本当に感心してしまいました。

 

ポイント②:ジオラマの多用

そもそも私がこの博物館を訪れようと思ったきっかけは、高度経済成長期時代の団地の一部屋が、館内に再現されていると聞いたからです。残念ながらコロナ感染防止のため、平常時には中まで入れるらしい団地の部屋は、外からしか見ることができませんでした。しかし予想していた以上に、この博物館は大小さまざまのジオラマで溢れていて、団地に入れなくとも、充分楽しむことができました。

普通ジオラマは、その博物館が立っている地域の昔の風景や鳥観図を写すことが多いものです。ところが国立歴史民俗博物館では、もっとフレキシブルな使い方をしていました。例えば古代日本の北辺であった多賀城周辺、平安時代の京の都、中世になって水運が発達した大坂周辺、徳川家が統治した江戸などなど、つまりいろいろな時代の日本全国の風景を見ることができたのです。また、縄文時代の生活風景をあらわしたり、中世の様々な職能を見せるのに、等身大の人形も効果的に使用されていました。更に、先述した団地や昭和の街並みなど、タイムトラベルを楽しめるような等身大の風景もつくられていました。様々な角度でジオラマを楽しむことができたわけです。

またジオラマとは少し違うのですが、昭和時代の展示室の壁がレンガ造り風になっていたことも、雰囲気があって面白かったです。歴史を学ぶだけでなく、視覚的に印象付けるために、様々な工夫がされていると感じました。

 

ポイント③:俯瞰を意識した展示法

国立歴史民俗博物館を見ていると、博物館としての立ち場を定めないようにしているのかなと思うことが多々ありました。展示資料は豊富に用意されていますが、それをもってこういうふうに見せたいという意図があまり読み取れず、どちらかというと、どう読み取るかは訪れた人に任せているように感じられたのです。

例えば太平洋戦争がテーマのとき、大抵の博物館の展示の仕方は決まっています。大日本帝国の躍進、広がる戦線、男性の出征、銃後の辛い暮らし、学徒出陣、空襲、敗戦という流れですね。着目する点は博物館によって異なっても、この流れは変わりません。言い方は少し乱暴ですが、展示室を進むにつれて、だんだん暗い雰囲気になっていくものです。

ところが国立歴史民俗博物館は、そういう演出が皆無ではないものの、それほど強くありませんでした。というのも、負けていく日本関連の展示資料と並行して、勝ち進むアメリカの資料も展示していたからです。例えば日本が官民とも多大な犠牲を出した南洋諸島関係の展示では、アメリカが日本人に降伏を呼び掛けてまいたビラも一緒に展示され、双方の立場を見ることができました。銃後の苦しい生活に関連した展示では、その天井にB29らしき模型がありました。そして原爆に続く日本降伏の展示では、日本の無条件降伏が報道されているアメリカの新聞も一緒に展示されていました(カリフォルニアの新聞だったかと思いますが、初めて見た資料でした。号外3本めだったようで、翌日はお店も全部お休みとの報道。アメリカの喜びようがわかりますし、あの大国にとってもそれほど大きな戦争だったのだと改めて感じました)

これらの展示法が示すのは、なるべく歴史を俯瞰的に見るよう意識されているということです。もちろん日本史を伝える博物館ですから、日本に寄っていて当たり前なのですが、そこにアメリカの視点が加わることで、印象はかなり変わってきます。「日本にとっての悲惨な戦争」と「アメリカにとっての輝かしい勝利」が両立していることを知るのは、本当に大切なことです。

こういう俯瞰的な視点は、テーマのつくり方にも及んでいました。他の博物館であまり見かけないテーマだと、いわゆる「えた・ひにん」等と呼ばれた被差別民やアイヌ民族の歴史なども、広いコーナーを設けて触れられていました。それも、「こんなに悲惨な歴史があった」「だからこうすべきだ」という感情を煽るような説明や結論は付随しておらず、飽くまで淡々と資料が展示されていることに、好感を持ちました。いい悪いを博物館が伝えるのではなく、こういうテーマが日本にはある、と知らせること自体に意味があるのだと思うからです。

 

ポイント④:展示室ごとに設置した休憩所

博物館で休憩を取ろうと思うと、だいたい展示室のすみにちょっと据え付けてある小さなベンチや、展示室の外にある休憩室で過ごすことになりますね。足が疲れてしまって、展示室の後半はほとんど見ることなく、ひたすら外の休憩室を目指してしまった、という経験のある人もいるのではないでしょうか。

国立歴史民俗博物館は、この問題を、展示室が終わるごとに休憩室を設けることで解消していました。どの休憩室にも、椅子が設置されているだけではなく、自動販売機やトイレまで用意されています。これは海外でもあまり見た記憶のない配慮です。展示室の数から、少なくとも施設内に6つ以上の休憩室やトイレがあるわけで、その設置や維持には相当の金額もかかるはずです。これには本当に驚きました。

 

まとめ: 

ポイント①とポイント②から読み取れるのは、国立歴史民俗博物館は、所蔵している資料を見せるための博物館ではなく、日本通史を視覚的に語るための博物館であるということです。いい意味で、とても教科書的です。ですから千葉にありながら千葉に特化して語ってはおらず、日本のあちこちがテーマになっています。日本のどの地域から訪れても、あるいは外国人であっても、日本史を楽しく学べるに違いありません。

またポイント③の考え方は、私が思う歴史の学び方に合致していて、個人的にはとても好印象でした。子供に見せたいのはこういう展示がされている博物館だなと思いますし、大人にとっても人それぞれのよみ方ができる博物館だと思います。

国立歴史民俗博物館はとても広いのですが、ポイント④によって、自分のペースで周りやすくなっているのもよかったです。小さな子供が飽きてしまってもすぐに外へ連れ出せますし、疲れた大人も足を休められます。休憩室から直接出口に向かえるところもあったので、今日は古代と中世だけ見て、後日、近世以降を見る、という周り方も可能です。

私個人の経験から言えば、日本史を学ぶのに、ここまで気が配られている博物館は珍しいと思います。加えてスタッフの方たちも皆丁寧で気持ちよく、本当に楽しい一日が過ごせました。またゆっくり見に行きたいですし、次こそは、団地のジオラマに入ってみたいです(*^-^*)。

 

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