夏川夕の作家生活

歴史と異文化をテーマに小説を書いています。出版賞に挑戦中。

#名刺がわりの「本」10選②

こんにちは。

夏川夕です。

 

昨日の続きです。

Twitterでよく見かける「#名刺がわりの小説10選」を私もやりたかったのですが、小説だけにおさめられなかったので、ブログにて「#名刺がわりの「本」10選」を書いています。最初の5冊の紹介は、昨日の記事をご覧ください。すべて小説です。

natsukawayu88.hatenablog.com

今日は後半5冊、すべて研究書やノンフィクションです。

 

◆#名刺がわりの「本」10選◆

柴田翔『燕のいる風景』 

新海誠秒速5センチメートル

ミヒャエル・エンデはてしない物語

エドガー・ライス・バロウズ火星のプリンセス

三島由紀夫金閣寺

馬場あき子『鬼の研究』

アンネ・フランクアンネの日記

渋沢栄一『昔夢会筆記』

宮地正人徳川昭武幕末滞欧日記』

ポーラ・アンダーウッド『一万年の旅路』

 

◇馬場あき子『鬼の研究』

高校生のとき、古典で『伊勢物語 芥川の段』を学んだことにより、「鬼」について知りたくなりました。学校併設図書館の司書さんに尋ねて、紹介してもらったのがこの本です。以来、私が「鬼」を考えるときの案内書となっています。 

この本では、「鬼」を漢字、音、伝説、歴史、芸能など、多方面からとらえ、日本人固有の概念である「鬼」について解説しています。日本最初の鬼といわれる一つ目の「あよの鬼」から、各地に伝わる天狗伝説まで、様々な系統の「鬼」をたどるうち、その「あはれ」がしんしんと胸に沁みてきます。

私はこの本を読んですぐ、「鬼」をテーマにした小説を書きました。出版賞に応募したら、優秀賞はいただいたものの、残念ながら出版には至らなかった小説です。現在、手元でリライトを重ねています。いつか出版したいと考えている物語の1つです。

 

アンネ・フランクアンネの日記

 世界中で読まれている『アンネの日記』。 私が出会ったのは8歳のときで、それから10歳になっても、15歳になっても、そしてアンネよりずっと年をとっても、いつも本棚に並べてある1冊です。

ティーンエイジャーらしい、親との確執や恋の悩みの中に、ホロコーストの恐怖と、隠れ住むことへの閉塞感が織り込まれます。アンネの正直な観察眼と見事な描写により、私たち自身が、アンネとともに4年間隠れ住んだような錯覚を覚える本です。

10年ほど前、オランダにあるアンネの隠れ家を訪れたことがあります。現在、博物館になっているのです。日記と照らし合わせてじっくり見ようと思いましたが、なぜかその場にいるのが恐ろしく、急ぎ足で見て回り、写真は一枚も撮らずに外へ出ました。もう一度訪れたいとは、今のところ思いません。でもこの本は、いつまでも本棚に置いておきたいです。

 

渋沢栄一『昔夢会筆記』

 最後の将軍・徳川慶喜のインタビューがある、と言ったら、たいていの人は信じないのではないでしょうか。あるんです。それも、一部肉声のようなかたちで。

本のタイトルになっている昔夢会とは、明治も末となったころ、隠居していた慶喜に、幕末のあれこれをインタビューした会です。幕末、慶喜に仕えていた渋沢栄一をはじめとする、明治を支えた政治家や華族たちが、インタビュアーとなっています。時期によって文語体と口語体があり、特に口語体は、その空気感まで伝わってきて、慶喜という人を身近に感じられます。

何しろ幕末にはいろいろな事件がありましたから、参加者はわりと遠慮なしに、慶喜にガンガン質問しています。私が好きなのは、肝心なところに来ると、慶喜は「それは覚えない」「忘れた」などと逃げてしまうところで、家康を彷彿とさせる狸爺という言葉がぴったりです。政治家というのは今も昔も変わらないのだなとおかしくなります。

今、この昔夢会を開催するとしたら、どんな質問が出るでしょうか。歴史学者が頭を寄せて考えた質問でも、慶喜は「それは覚えない」と逃げてしまいそうですね。

 

宮地正人徳川昭武幕末滞欧日記』

大学一年生の夏休み、大学図書館の書庫で涼んでいたところ、ぱっと目に入って手に取った本。慶応年間にフランスへ留学していた、慶喜異母弟の昭武の日記をまとめた1冊です。この本に出会ったことが、私の研究人生を決めたと思います。

この本は、私にとって二重の意味を持ちます。一つは、幕末に外国を訪れた日本人の、貴重な外国観察記録であること。そしてもう一つは、留学時の昭武は弱冠14歳であり、同じ年ごろにアメリカに住んでいた私は、帰国子女としてシンパシーを感じること。

日記は時期を違えて、和文と仏文の両方で書かれています。どちらもほとんど事実のみを淡々と記していますが、水夫の踊りに笑った、セーヌ川で石投げをしたなど、ときどきふと少年らしい記述があるのが、ほほえましく、どこかほっとします。

この日記に導かれるように、私はパリへ2度行き、日記に書かれたすべての場所をめぐりました。そして今も、フランス語を勉強しています。掲載されている仏文日記を、初めて翻訳なしで読んだとき、150年前に書かれたものと通じ合った嬉しさに、思わず涙しました。思い出深い1冊です。

 

◇ポーラ・アンダーウッド『一万年の旅路』

これは本当の話?それともただのおとぎ話?この本を読んだ誰もが、そう自問せざるを得ないでしょう。

この本は、あるインディアンの一族に口伝で伝わる物語を、文字に書き起こしたものです。彼らがたどってきた道を語っているとされていますが、その内容は、大陸を横断し、海を越えたとしか解釈できないものです。もし語られていることがすべて本当なら、石器時代から続く人類史をそのまま口承した、超がつく貴重な資料です。

もちろん、あまりの壮大さに、この本はすべて嘘だという意見もあります。しかし私は、これが真実だと信じています。その根拠は、随所に出てくる写実的な表現です。

幸せに暮らしていた大地が、ある日突然のたうち、石が踊りだす。

海が壁になって向かってくる。

こうした写実的な表現は、見た者でないと、なかなか紡ぎだせないものではないでしょうか。

とても分厚く、1日ではなかなか読み切れない本ですが、できるならばこの本を読む間だけは、暮らしのすべてを手放して、集中したい。人類のたどってきた道に思いをはせたい。そんな気分にさせてくれる1冊です。

 

いかがでしたか?

こうして書き出してみると、名刺代わりにしようと思う本は、なかなか節操なくとはいかないものですね。選んだ10冊の根底に流れるものは、結局同じだなと思います。

願わくば、私が書く小説たちにも、同じ「悠久の時の流れ」「情景の美しさ」「構成の妙」、そういったものが流れますよう。

 お付き合いいただいてありがとうございました。