夏川夕の作家生活

歴史と異文化をテーマに小説を書いています。電子書籍にて出版予定。

#名刺がわりの「本」10選①

こんにちは。

夏川夕です。

 

Twitterで読書アカウントの人たちがやっている「#名刺がわりの小説10選」、私もやりたいと思って書きかけたんですが、これ、「小説」にしぼっているんですね。私の本棚は、半分以上を研究書やノンフィクションが占めているので、「名刺がわり」にするならそういう本も入れたいなと、悩んでしまいました。そこで、ブログで「#名刺がわりの「本」10選」をすることにします。せっかくなので、それぞれの本への思い入れも書いていきたいと思います。

 

◆#名刺がわりの「本」10選◆

柴田翔『燕のいる風景』 

新海誠秒速5センチメートル

ミヒャエル・エンデはてしない物語

エドガー・ライス・バロウズ火星のプリンセス

三島由紀夫金閣寺

馬場あき子『鬼の研究』

アンネ・フランクアンネの日記

渋沢栄一『昔夢会筆記』

宮地正人徳川昭武幕末滞欧日記』

ポーラ・アンダーウッド『一万年の旅路』

 

柴田翔『燕のいる風景』

東京大学ドイツ文学者であり、芥川賞受賞者でもある著者による、実験的な短編が収められた1冊。太平洋戦争の思い出が色濃く、しかし薄れつつある昭和の町を舞台に、名もない男女が行き交うさまを、ミクロからマクロの視点へ、自由に飛びまわりながら描写しています。

生きることは嬉しいのか、悲しいのか。そんな人生の悩みさえも、宇宙から、あるいは歴史から見れば、矮小なものでしかなく、ただ無数の人生の上に積もっていくだけという哲学があり、しかしやはり、その人自身にとっては大きな悩みなのだと寄り添うやさしさが垣間見えます。

短編はどれも短いのですが、私は1つ読み終えるたび、本を閉じて、余韻を反芻します。それぐらいの質量があるのです。電車旅行に持っていくのに、おすすめの1冊です。

 

新海誠秒速5センチメートル

映画「君の名は」で一世を風靡した新海監督が、その十年前につくったアニメ映画のノベライズです。ノベライズといっても、文章は新海氏自身が書いています。そのためか、文体や言葉に独特のリズムがあって、いつか見た景色のような、どこか懐かしく切ない感情が、ずっとさざ波のように打ち寄せる1冊です。

この本を私が初めて読んだのは21歳のときでしたが、読み終えて少し呆然とした後、このタイミングで読めてよかったと思いました。高校生のときに読んでも、社会人になってから読んでも、私は違う受け取り方をするだろうと感じたからです。

人と人との距離。感情や、時間や、関係性により、近くも遠くもなるそれは、自らが近づこうとしても遠ざかろうとしてもどうにもならないものです。それでもやはり、前には進んでいかなければならない。その人生の空虚さと、しかし確かにある希望が、読了後にせめぎ合います。

 

ミヒャエル・エンデはてしない物語

#名刺がわりの小説10選で、たくさんの人があげている名作中の名作。初めて読んだとき、こんな手法があったのか、と天を仰ぎました。

「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時にはなすことにしよう」

こんなにわくわくする一文があるでしょうか。無数の物語が詰まった本。その物語はすべて、どのようにでも、読者が創造することができるのです。

私は、ミヒャエル・エンデの作品を、『はてしない物語』以外読んだことがありません。『はてしない物語』を初めて読んだときの衝撃が、再び訪れるのが怖いのです。いつか、『モモ』を読みたい。でもそれは、もう少し先のことになりそうです。

 

エドガー・ライス・バロウズ火星のプリンセス

Twitterでもこのブログでも幾度か言及している、スペース・オペラの傑作です。王道のナイト&プリンセスもので、展開もお約束ですが、火星の歴史や文化、言葉に至るまでの細かい設定が物語を重厚にし、次から次にシーンが目まぐるしく変わるおかげで、何度読んでも新鮮な高揚感が訪れます。

ジョン・カーターやタルス・タルカスをはじめとする個性豊かなキャラクター達も魅力の一つです。滅びた古代都市の廃墟を歩き、枯れた火星の海を船や馬で駆けめぐる彼らは、死と隣り合わせでありながら、いつも希望を捨てることなく、問題に解決策を見出します。

「わたしはまだ生きている」

ジョン・カーターの言葉が、友人や子孫へ伝播しているのは、地球人として喜ばしいことだと思います。

 

三島由紀夫金閣寺

太宰治の『人間失格』と悩みましたが、読了時の感動は、私の場合、『金閣寺』の方が大きかったので、こちらを選択しました。『人間失格』は中学時代から幾度も読み返しているのですが、『金閣寺』は何度トライしても最初の10ページで挫折した過去があります。ほかの三島作品は読めていて、『仮面の告白』なども好きだったのに、『金閣寺』だけは高校生のときにもだめ、大学でもだめ、社会人になってもだめ……。

それが28歳のとき、ふっと読み始めてみたらそのままのめり込み、とうとう1日で読み終えてしまいました。文章そのものも、情景や心理描写も、そして物語構成も、どれをとっても言い表せないほど美しく、初めて三島由紀夫の凄さがわかった気がしました。

時の流れを飛ぶ金閣寺鳳凰、美しさに悶える僧侶を迎え入れていく闇の扉。正確な文章は忘れても、『金閣寺』の至る所の情景は、まるで映画を見てきたように心に刻まれています。三島由紀夫が書いたままの、旧仮名字体で読むのがおすすめの本です。

 

楽しく書いていたら、すっかり長くなってしまいました。

残りの5冊は、明日紹介します。